HERITAGE OF MODEARNIZATION Story.17 『重工業化のフロントランナー』京浜工業地帯発展の歩みを物語る近代化産業遺産群
明治30年代から40年代にかけて、日本の工業は、軽工業から重工業へと重心が移り始める。重工業は、軽工業と比較して、広大な敷地、多量の原料の受入れや製品の送出しのための大型船舶の係留岸壁、運河や鉄道などの輸送インフラなどがより重要な意味を持つ。そうした中、このようなインフラの整備も含め計画的に造成された川崎や鶴見などの臨海部は、我が国最大の重工業地帯である京浜工業地帯へと成長を遂げた。京浜工業地帯の企業敷地内や公共施設等には、企業の歴史や当時の最新技術を伝えるモニュメントとして、また、企業博物館などの収蔵品として、我が国の近代化を物語る貴重な製品、機器、資料等が保存・展示されている。 このストーリーの近代化産業遺産例
明治後期の我が国の工業は、日清・日露戦争期の軍事需要等を背景として、従来の繊維・製紙・食品などの軽工業を中心とする構造から、鉄鋼・造船・機械などの重工業を中心とする構造へと移行し始めた。重工業の立地においては、軽工業と比較して、広大な敷地や、多量の原料や製品を受け入れ、送り出すための大型船舶が直接係船できる岸壁・運河や鉄道といったインフラがより重要な意味を持つが、当時の我が国には、このようなインフラを充分に備える場所が存在しなかった。
こうしたインフラ整備の重要性にいち早く着眼し、計画的に重工業の立地を図ったのが、当時の実業家、浅野総一郎である。浅野が着目したのは、東京という大消費地に近接し、現在のJR東海道本線、京浜急行電鉄等の輸送手段が整備され、埋立に適した遠浅の海岸が続く等の利点を有する川崎から鶴見にかけての臨海部であった。浅野らは渋沢栄一、安田善次郎といった実業家の協力を得て、1908 年に鶴見埋立組合(後の鶴見埋築㈱、現:東亜建設工業㈱)を設立し、1913 年から鶴見・川崎海岸地区(約418ha)の埋立事業に着工した。東京から横浜にかけての臨海部の埋立自体は、江戸時代から江戸幕府によって行われており、明治期以降は東京府(後の東京市、現:東京都)や横浜市、川崎市等の地方公共団体によっても盛んに行われた。しかし、埋立事業だけではなく、鉄道(鉄道省(現:東日本旅客鉄道㈱)の貨物線、鶴見臨港鉄道(現:JR鶴見線)等)、運河(京浜運河等)などの輸送手段、遠隔地に水力発電所を設けることによる遠隔地からの電力供給などのインフラ整備に加え、専用埠頭を設け、原材料を輸入し、製品を輸出する総合的な重工業用地として計画的に造成されたものは、浅野によるものが我が国最初であるとされる。
こうして造成された埋立地には、第一次世界大戦の軍需と戦後の好景気、関東大震災で大きな打撃を受けた旧来からの東京湾深部や内陸の事業所の移転などを背景に、浅野が設立した浅野セメント㈱(現:太平洋セメント㈱)、第一セメント㈱(現:㈱ディ・シィ)、日本鋼管㈱(現:JFEスチール㈱)等の素材系産業、昭和肥料㈱(現:昭和電工㈱)や味の素㈱等の化学・食品系産業、㈱芝浦製作所(現:㈱東芝)、日産自動車㈱等の電機・機械系産業、そのほか石油化学、エネルギー産業等、我が国の近代化を支えた多くの企業が進出し、我が国最大の工業地帯である京浜工業地帯の骨格を形成した。
これらの工場で採用された技術は、国内初、国内唯一、国内最新などを誇るものが多く、生産された製品も国内初、国内最高性能、国内最大生産量などとされたものも多い。また、「マイクロメーター」等の精密測定機器の技術向上も、生産設備や製品の技術向上に大きく寄与しているといえる。
京浜工業地帯は、戦後も地方自治体等による埋立が継続され、工業地帯として成長、今日も名実ともに我が国を代表する工業地帯であり続けており、日々時代に見合った施設更新が行われている。また、第二次世界大戦中の大規模な戦災などもあり、現在も現役で稼働し続ける近代化産業遺産は、もっぱら一部の工場建屋や事務所、セメントサイロ、運河水門等の土木構造物に限られる。しかし、企業敷地内や地域の公共施設等には、企業の歴史や当時の最新の生産技術を物語るモニュメントとして、あるいは企業が設置した博物館・資料館等の収蔵品として、往時の製品や設備機器、資料等が保存・展示されている。今日では、これらを活用した自治体や企業等による見学会・学習会なども盛んに行われており、多くの市民に親しまれている。
- 17-a JR鶴見線(旧鶴見臨港鉄道)国道駅/神奈川県横浜市鶴見区
- 17-b 塔之沢線鉄塔(「電気の史料館所蔵)/神奈川県横浜市鶴見区
- 17-c 川崎河港水門/神奈川県川崎市川崎区
- 17-d 日産自動車横浜工場1号館(現横浜工場ゲストホール・エンジン博物館))/神奈川県川崎市神奈川区
- 17-e 日本ビクター第一工場ファサード/神奈川県横浜市神奈川区
- 17-f トーマス転炉 (川崎市民ミュージアム所蔵)/神奈川県川崎市中原区
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出典:経済産業省作成「近代化産業遺産群33」
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