HERITAGE OF MODEARNIZATION Story.18 官民の努力により結実した関東甲信越地域などにおけるワイン製造業の歩みを物語る近代化産業遺産群
日本のワイン製造は明治時代に入ってから始まった。政府は、米不足緩和のための日本酒消費量の削減と輸出産業創出を目的として、欧米からぶどうの苗木を輸入し、各地でワイン製造を奨励した。手始めに官営事業として北海道や兵庫県などでワイン製造が試みられたが、害虫や悪天候により廃業に追い込まれたものもあった。一方、鎌倉時代からブドウの栽培が行われていた山梨県では、官民の協力によりワイン製造が開始され、後には、中央本線の建設などによる物流の大幅改善や煉瓦製鉄道トンネル技術の進展によるワイン貯蔵庫建設技術の向上により、我が国を代表するワイン産地として発展していく。また、茨城県では、フランスなどから高級ワイン製造法などを取り入れ、ブドウ栽培から瓶詰出荷までを一貫して行う我が国初の本格的ワイン醸造所も作られた。 このストーリーの近代化産業遺産例
我が国のワイン製造は明治時代に入ってから始まった。明治政府は、米不足の緩和のための日本酒消費量の削減と輸出産業創出を目的として、欧米からぶどう苗木を輸入し、全国各地でワイン製造を奨励した。また、政府による官営事業として、1876 年に現在の北海道札幌市に開拓使葡萄酒醸造所が、1880年に現在の兵庫県稲美町に国営ワイナリー・播州葡萄園が開設された。開拓使葡萄酒醸造所は山梨県立葡萄酒醸造所に勤務した桂二郎(桂小五郎の弟で、後の日本麦酒醸造会社第3 代社長)に1886 年に払い下げられ、大正期まで操業を続けた。播州葡萄園はワインなどを試醸したが、その後害虫や悪天候による壊滅的な打撃を受け、1886 年に前田正名に経営を委嘱し、1888 年同人に払い下げられるも、1890年代に廃園となった。
一方、鎌倉時代からブドウの栽培が行われ、江戸時代には既に食用ブドウの産地であった山梨県の勝沼周辺では、明治初期に山田宥教と詫間憲久の両名によるワイン製造の試みが開始され、続いて1877 年には山梨県による県立葡萄酒醸造所が完成した。さらに同年、官民の協力により現在の勝沼に大日本山梨葡萄酒会社を創立し、高野正誠と土屋助二郎(のちの龍憲)の二人をフランスに留学させ、本場のワイン製造技術を導入した。大日本山梨葡萄酒会社は1886 年には解散するものの、宮崎光太郎と土屋らは甲斐産商店を設立して醸造を続け、その後大黒葡萄酒㈱、オーシャン㈱(現:メルシャン㈱)へと発展した。土屋は1891 年に甲斐産商店を退き、マルキ葡萄酒(現:まるき葡萄酒㈱)を設立した。高野は大日本山梨葡萄酒会社解散後、栽培や醸造技術の普及につとめ、1890 年に『葡萄三説』を著している。
山梨県内の官営のワイン製造は明治中期に途絶えてしまうが、フランスで農業経済の知識を身につけ、地方在来産業の振興と輸出産業への育成を志し、一時山梨県令も務めた前田による振興策や普及活動もあり、民間ではその後もワイン製造への取組が拡大した。登美高原では、1909 年に小山新助が近代ワイナリーの先駆けである登美農場を開設した。その後、ワインの品種改良に尽力してきた川上善兵衛と寿屋(現:サントリー)の創業者・鳥井信治郎の協力により1936 年に寿屋山梨農場として再出発し、現在の登美の丘ワイナリーへと発展してきた。
また、ワイン製造業の発展にあわせて、1896 年から1903 年にかけた中央本線八王子~甲府間の建設と1913 年の勝沼駅開業により物流面が大幅に改善するとともに、その煉瓦による鉄道トンネル技術によりワイン貯蔵庫の建設技術が向上し、龍憲セラーなどの煉瓦造ワイン貯蔵庫が建設された。また、1915 年に日川水制・1917 年に勝沼堰堤が竣工して水害による中央本線や甲州街道の寸断が無くなり、東京など遠隔地との物流が安定した。また、1920 年に山梨田中銀行が設立されて地域の経済活動を支えるとともに、1930 年には祝橋が竣工して各醸造所と勝沼駅との自動車輸送が強化された。
このように山梨県においては、明治中期以降も政府による技術者派遣などの支援を受けながら近代的なワイン製造に向けた取組みが継続・推進され、勝沼の町を中心に我が国を代表するワイン産地としての礎が築かれた。
明治中期以降のワイン製造に取組む民間の動きは山梨県外でもみられ、その代表的なものとしては、1903 年に茨城県牛久の地に、浅草「神谷バー」の名でも知られる神谷傳兵衛により開設され、フランス種の葡萄とフランス・ボルドー地方の高級ワイン製造法を採り入れ、葡萄栽培から瓶詰出荷までを一貫生産する我が国初の本格的ワイン醸造所となった牛久醸造場(現:シャトーカミヤ)がある。
- 18-a 牛久醸造場/茨城県牛久市
- 18-b 宮崎第二醸造所建物(現 メルシャンワイン資料館)/山梨県甲府市
- 18-c 龍憲セラー/山梨県甲州市
- 18-d JR旧深沢トンネル(現勝沼トンネルワインカーヴ)/山梨県甲州市
- 18-e 祝橋/山梨県甲州市
- 18-f 国指定史跡 播州葡萄園跡/兵庫県加古郡稲美町
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出典:経済産業省作成「近代化産業遺産群33」
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